AIエンジニアはやめとけ?年収609万円と修士63%の実態を統計で検証
執筆・監修: 徐 聖博/株式会社シンシア 代表取締役社長
「AIエンジニアはやめとけ」の根拠を公的統計で検証。厚労省job tagの年収は609.8万円で、システムエンジニアとの差は31万円。真の参入障壁は資格ではなく修士63.6%という学歴分布でした。需給ギャップ12.4万人の引用の注意点も解説します。
目次
「AIエンジニアはやめとけ」は本当か、公的統計で確かめる
AIエンジニアを目指そうと検索すると、「やめとけ」が並ぶ。参入障壁が高い、勉強が終わらない、いずれAIに代替される。理由はもっともらしいが、根拠として数字が出てくることはほとんどない。
だから、まず数字から入る。
厚生労働省の職業情報提供サイト job tag によれば、AIエンジニアの年収は609.8万円である。同じ調査系列で、システムエンジニア(受託開発)は578.5万円。差は31万円しかない。しかも平均年齢はAIエンジニアが42.2歳、システムエンジニアが37.1歳で、AIエンジニアのほうが5歳上である。年齢を揃えれば、差はさらに縮む。
「AIエンジニアは高年収」という前提そのものが、日本の公的統計では支えきれていない。では「やめとけ」が正しいのかというと、そうとも言い切れない。止めるべき理由と、止めなくていい理由が、世間で言われているのとは別の場所にある。
AIエンジニアの年収は、言われるほど高くない
まず、比較できる形で並べる。いずれも厚生労働省 job tag の掲載値で、賃金は令和7年(2025年)賃金構造基本統計調査を加工したものである。
| 職業 | 年収 | 平均年齢 | 有効求人倍率 |
|---|---|---|---|
| AIエンジニア | 609.8万円 | 42.2歳 | 1.96 |
| データサイエンティスト | 611.9万円 | 43.9歳 | 8.91 |
| システムエンジニア(受託開発) | 578.5万円 | 37.1歳 | 2.54 |
| Webデザイナー(Web制作会社) | 539.6万円 | 39.1歳 | 0.11 |
(出典:厚生労働省 job tag、2026年8月確認。有効求人倍率は令和7年度ハローワーク求人統計)
ここで一つ、留保を入れておく必要がある。job tag の「AIエンジニア」の賃金は、AIエンジニア単独で集計されたものではない。職業分類上は「その他の情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発を除く)」の統計であり、サイト自身が「必ずしもその職業のみの統計データを表しているものではありません」と明記している。厳密なAIエンジニアの平均年収を示す公的統計は、現時点で存在しない。
それを踏まえても、方向としては読める。転職市場でも同じことが起きている。転職サービスdodaの「平均年収ランキング2025」(有効回答約60万件、2025年12月発表)では、ITエンジニア全体の平均が469万円、もっとも近い職種であるデータサイエンティストが539万円である。そしてこの176職種の一覧に、「AIエンジニア」という区分そのものが存在しない。統計の側が、まだこの職種を独立して数えていない。
スキルレベル別に見ると、上のほうは伸びる。
| ITSSレベル | AIエンジニア〈設計・構築〉 | データサイエンティスト〈企画立案〉 |
|---|---|---|
| レベル1〜2 | 420〜620万円 | — |
| レベル3 | 450〜700万円 | 600〜900万円 |
| レベル4 | 500〜780万円 | 650〜950万円 |
| レベル5以上 | 600〜950万円 | 700〜1,100万円 |
(出典:job tag 掲載、厚生労働省2023年度委託調査。第一四分位〜第三四分位)
つまり、AIエンジニアは「入れば高年収」の職種ではない。レベルを上げれば上がるが、それは他の職種でも同じである。年収だけを動機に選ぶと、割に合わないと感じる可能性が高い。
「やめとけ」と言われる理由を、一つずつ検証する
参入ハードルが高い
これは本当である。ただし、ハードルの正体は多くの記事が書いているものと違う。
job tag が就業者に聞いた「実際に働いている人に多い学歴」を見ると、差は明白だった。
| 学歴 | AIエンジニア | データサイエンティスト | SE(受託開発) |
|---|---|---|---|
| 大卒 | 57.6% | 55.3% | 84.6% |
| 修士課程卒 | 63.6% | 44.7% | 7.7% |
| 博士課程卒 | 30.3% | 29.8% | 2.6% |
| 専門学校卒 | 6.1% | 2.1% | 30.8% |
| 高卒 | 3.0% | 2.1% | 20.5% |
(出典:job tag、複数回答。「実際に働いている人が多いと感じる学歴」の調査であり、必須要件ではない旨がサイトに明記されている)
システムエンジニアは修士7.7%、専門卒30.8%、高卒20.5%。学歴の分布が広い。対してAIエンジニアは修士が63.6%、博士が30.3%を占める。job tag の解説文も「特に学歴や資格は必要とされず、現状では求められる要件や水準も明確でないが、大学院で情報科学あるいは工学部、理学部の様々な分野の修士か博士号取得者が多くを占める」と書いている。
これは「学歴がないと就けない」という意味ではない。必須要件ではないと明記されている。ただ、周囲が大学院で数学と機械学習をやってきた人ばかりの場所に、独学で入っていくことになる。参入障壁は資格でも試験でもなく、すでにその場にいる人たちの前提知識である。
ちなみに、job tag はAIエンジニアについて「関連する資格はありません」とも書いている。資格取得で埋められる差ではない。
常に新しい知識を学び続ける必要がある
これも事実だが、「やめとけ」の理由になるかは人による。技術の更新が速い分野は他にもある。生成AIの登場以降は特に速いので、業務時間外の学習が前提になる点は覚悟が要る。
理論と実装の両方が求められる
線形代数・微分積分・確率統計の理解と、Python等での実装力の両方が要る。学歴分布に修士・博士が多いのは、この理論側の要求が効いているためと考えられる。実装だけできればいい職種ではない。
AI開発自体もAIに代替されるのではないか
これは、現時点で決着のついていない論点である。信頼できる一次データで日本のAI関連求人数の推移を追おうとしたが、確認できなかった。よく引用される「AI求人が◯倍」といった数値は、一次出典にたどり着けないものが多い。
確認できたのは、Indeed Hiring Lab の調査で、2023年7月時点の日本のIndeed掲載求人のうち生成AI関連は0.02%、2022年まではほぼ観測されず2023年1月から急増した、という事実である。カテゴリ別ではソフトウェア開発が34%を占める。
一方で、有効求人倍率の対比は示唆的である。AIエンジニア1.96、データサイエンティスト8.91に対し、Webデザイナーは0.11。代替の影響が先に出ている職種は、AI開発の側ではない。
実務経験がないと就職・転職が厳しい
「AIエンジニア求人のうち未経験可が何%か」という統計は、公的にも民間にも見つからなかった。そのため、ここは断定を避ける。
判断材料になるのは、job tag が「実績のあるAIエンジニアの中途採用、優秀な大学院生・大学生の新卒採用は争奪戦」と書いていること、そして機械学習やディープラーニングの専門家が日本全国で1万人を超える程度と推定されていることである。母数が小さく、経験者が奪い合われている市場で、未経験者の枠が広いとは考えにくい。
需要の数字は、引用のされ方に注意がいる
「2030年にAI人材が12.4万人不足する」という数字をよく見る。出典は経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月)である。原典を確認すると、この12.4万人は平均シナリオ(AI需要の伸び年16.1%)の値だった。
同じ調査には低位シナリオ(年10.3%)も併記されている。そちらでは、需給ギャップは2018年の3.4万人から縮小し、2030年には1.2万人になる。供給側が2018年の1.1万人から2030年に12.0万人へ、約11倍に増える想定が効いている。
| シナリオ | 2018年 | 2025年 | 2030年 |
|---|---|---|---|
| 需給ギャップ(平均) | 3.4万人 | 8.8万人 | 12.4万人 |
| 需給ギャップ(低位) | 3.4万人 | 2.7万人 | 1.2万人 |
(出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」2019年4月)
不足の側だけを引くと「今から入れば引く手あまた」に読めるが、同じ資料は供給が11倍に増える前提も置いている。7年前の推計であることも含めて、この数字を進路判断の根拠に置きすぎないほうがいい。
なお、IPA「DX動向2025」は日米独比較で「日本では人材種別を問わずAI関連人材が不足している」と述べており、不足の方向自体は否定されていない。
それでも向いている人、やめたほうがいい人
ここまでの数字から言えることを整理する。
向いているのは、理論を学ぶこと自体が苦にならない人である。数学に抵抗がなく、論文や英語のドキュメントを読む作業を継続できる人。年収以外の動機がある人。そして、大学院レベルの前提知識を持つ人たちの中で、しばらく劣位に置かれることに耐えられる人。
やめたほうがいいのは、年収を主な理由に選ぼうとしている人である。統計上、システムエンジニアとの差は31万円で、平均年齢は5歳上だった。年収を上げる目的なら、ITSSレベルを上げる、上流工程に移る、といったルートのほうが確実性が高い。短期で転職したい人にも向かない。理論の習得に時間がかかるうえ、未経験の受け皿が広い市場ではない。
数学が苦手だという理由だけで諦める必要はない。ただ、「苦手だが克服する気はある」と「苦手だから避けたい」では結果が変わる。避けたいのであれば、エンジニアの種類から他の職種を見たほうが早い。
未経験から目指す場合の現実的なルート
目指すと決めたなら、順序がある。
- Pythonの基礎とSQLを先に固める。ここは独学で到達できる
- 数学の基礎(線形代数・微分積分・確率統計)に手をつける。ここで多くが止まる
- 機械学習の理論と実装を、小さいデータセットで一通り回す
- 成果物を公開する。KaggleやGitHubに、自分で選択の理由を説明できるものを置く
- 周辺職種からの参入も検討する。データエンジニア、バックエンドエンジニアとして入り、業務の中でAI領域に寄せていくルートは、いきなりAIエンジニア職を狙うより現実的な場合が多い
1と2の段階は、ナミノリの無料講座でも進められる。プログラミングの基礎から入る場合の全体像は未経験からITエンジニアになるにはに、独学の組み立て方は独学でITエンジニアになるにはにまとめてある。
よくある質問(FAQ)
AIエンジニアの年収は本当に高いのですか?
厚生労働省 job tag の掲載値では609.8万円で、システムエンジニア(受託開発)の578.5万円との差は31万円である。ただしAIエンジニアの平均年齢は42.2歳とSEより5歳高い。また、この賃金は「その他の情報処理・通信技術者」の統計を用いたもので、AIエンジニア単独の集計ではない点に注意が必要である。
未経験・文系からでもAIエンジニアになれますか?
job tag は「特に学歴や資格は必要とされず」としており、制度上の制限はない。ただし就業者の学歴分布は修士63.6%・博士30.3%で、システムエンジニア(修士7.7%)とは大きく異なる。文系・未経験から目指す場合は、数学の基礎に相応の時間を割く前提で計画を立てる必要がある。
AIエンジニアの仕事は、いずれAIに代替されますか?
現時点で判断できる一次データは乏しい。参考になるのは有効求人倍率で、AIエンジニア1.96・データサイエンティスト8.91に対し、Webデザイナーは0.11である。代替の影響が先に表れているのはAI開発職ではない、という状況が読み取れる。
AIエンジニアに資格は必要ですか?
job tag は「関連する資格はありません」と明記している。資格で参入障壁を越えるという発想は、この職種には当てはまりにくい。実装した成果物と、その選択を説明できることのほうが評価される。
データサイエンティストとどちらを目指すべきですか?
job tag では年収はほぼ同水準(609.8万円 対 611.9万円)だが、有効求人倍率はAIエンジニア1.96に対しデータサイエンティスト8.91と差が大きい。ITSSレベル別の年収レンジもデータサイエンティストのほうが高めに出る。ただし職業分類が異なるため単純比較はできない。学歴分布は修士の比率でAIエンジニアが上回る(63.6%対44.7%)。
まとめ
- AIエンジニアの年収は job tag で609.8万円。システムエンジニア(受託開発)578.5万円との差は31万円で、平均年齢は5歳上。「入れば高年収」は統計では支持されない
- dodaの176職種一覧に「AIエンジニア」の区分はまだ存在しない。統計が職種分化に追いついていない
- 参入障壁の正体は資格でも試験でもなく学歴分布。修士63.6%・博士30.3%(SEは7.7%・2.6%)。ただし必須要件ではない
- 「2030年に12.4万人不足」は平均シナリオの数字。同じ経産省推計の低位シナリオでは1.2万人まで縮小する
- 年収を動機に選ぶなら「やめとけ」は妥当。理論を学ぶこと自体に耐性があるなら、障壁は越えられる種類のものである
数字が示しているのは、この職種が「おいしい」わけでも「無理」でもない、ということだった。判断を分けるのは市場ではなく、数学と論文に向き合う時間を確保できるかどうかである。まずは無料講座でPythonの基礎から試して、その時間が取れるかを確かめてみてほしい。学習と求人紹介をまとめて受けたい場合は会員登録から。
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